|
夢野久作について述べておきたい二、三の事項
「夢野久作」という作家は、戦前日本の探偵小説作家である。時期的には、大正の江戸川乱歩から昭和の横溝正史ら探偵小説作家の流れの、ちょうど真ん中に位置するが、必要以上に異端扱いされているように感じる。そのせいか、現在も全集が出ては絶版となっており、現在読める作品の殆どが、傑作選の文庫である。一夢野ファンとして、この扱いには納得のいかないものを感じている。大変残念である。日本の出版社、もっとちゃんとしてくれよ。
さて。彼の最も有名な作品といえば、ご存知「ドグラ・マグラ」である。「これを読む者は、一度は精神に異常をきたすと伝えられる、一大奇書」と謳われている。んー、たしかにものすごいハナシではある。ラスト近くの殺戮の描写などは、その様がスローモーションのように脳裏にこびりつく。精神的にかなり来るのは事実である。が、夢野の描く世界観は「恐ろしく」「血生臭く」「暗く」「じめじめした」中に、一本筋の通った「人間くささ」がかならず存在するのを忘れてはならない。これは「ドグラ・マグラ」もモチロンのこと、「少女地獄」であっても「氷の涯」であっても通じる。彼の魅力はそこにあると実感する。
たとえば、彼が田舎に住む人々の人間関係や事件を描いた「いなか、の、じけん」や「巡査辞職」などは、彼らしい描写に満ち溢れていると思う。また、「押絵の奇跡」には、誰しもがうーんとうなってしまうような、肉感的な色気と、凛とした才気あふれる女性が描かれる。さらにいえば、皆とても都会的なのである。フロックコートをひかっけ、バットをくゆらせた紳士たち。活動を見に行く女学生は、皆オシャレに余念がない。女性の登場人物も仕事をもっているケースが多い。
夢野久作の本は、ただの異端小説だと思い込んでいる方がいたら、それはとても残念なこと。ぜひとも、手にとって読んでいただきたい。今、氾濫している彼の著書に対する書評の殆どはあてにはならない。夢野久作は、異端作家でもなければ、怪奇作家でもないのだから。
余談であるが、わたしは二十歳からの三年間を、福岡市東区にある香住ヶ丘という地域で過ごした。具体的に調べることは出来なかった(しなかった)けれど、おそらく夢野が暮らしていた場所から、ほど近い土地に住んでいたのは間違いないと思う。あの踏切を越え、ちょっとした丘を上り詰めたら夢野に会えるような、そんな気がした三年間だった。
三一書房さんからの全集の復刊を、心から願うものである。(2002.04.19 YOUCHAN)
|